錆画:双子星の音色
冒頭の写真の作品は、宮沢賢治の小説「双子の星」をテーマにしました。
小説に出てくる心優しい双子のお星様、チュンセ童子とポウセ童子。
この可愛らしい名前を聞くと、3つ歳上の従姉を思い出すのです。
彼女は手先が器用で、絵を描くことがとても上手。
わたしは幼い頃、その従姉と遊ぶのがとても楽しみでした。
ある日幼稚園から帰って、従姉の部屋で遊んでいると
「昨日の夜ね・・・」と彼女が不思議なお話を始めました。
内容はといいますと・・・。
夜中にお手洗いに行きたくなって目が覚めた彼女。
部屋から出て、寝ぼけ眼でトイレまでの廊下を歩いていると
廊下を突き当たった壁に、突如白くモヤモヤっとうごめくものが現れました。
得体の知れないモヤモヤは少しづつ大きくなって不気味に白く光っています。
突然のことに恐怖する彼女は、立ちすくんだまま声を出すこともできず
心の中で「怖い!!!誰か助けて〜〜!!!」と叫ぶと
なんと、そこに颯爽と現れたのは
「ピットコタン」という
背丈約25cm(わたしの勝手なイメージ)の正義の味方。
マントをつけていて、おそらく妖精か妖の類。
正義の味方ピットコタンは、小さな身体でぴょんぴょんと飛び跳ねながら
持っていた剣で白いモヤモヤと勇敢に戦い、見事退治してくれました。
感激した彼女は、お礼に台所にあったリンゴを紙袋に入れて渡すと
ピットコタンはリンゴを受け取って去ってゆきました。
この話に幼いわたしは大興奮しました。
ピットコタンに会いたくてしょうがない。
話を聞いてから数日間は
うちにもピットコタンが現れてはくれないかと母にリンゴを用意してもらい
毎晩心待ちにしたのでした。
しかし・・・いちども現れてはくれませんでした。
単純なわたしは、小学校の3年生頃までだったと思うのですが
従姉のこの作り話をまんまと信じていて
友達が集まって「不思議な話、怪奇話」になると
持ちネタのひとつとして披露していました。
そんなある日、本当に突然だったのですが
「あ、あの話は嘘だ」と気がついたときの、なんとも言い難い現実感。
今でもよく覚えています。
自分だけが止まっていて
周りの景色が早いスピードで大きくなり、過ぎていくような・・・
だいぶ大人になってから従姉に「あの話、信じていた」というと
彼女は「あんたが信じるから面白くてー」と、ケラケラ笑っていました。
大人になった今でもこの話を思い出すと自然と頬が緩みます。
彼女の作り話で、わたしは想像するというとても愉しい夢をみました。
「双子の星」からはだいぶ話が逸れてしまいましたが
わたしの頭の中では
チュンセ童子、ポウセ童子とピットコタンがどうしても繋がってしまい
従姉のことを思い出すのです。
今は、現実があまりにもハードすぎるのでしょうか 笑
愉快な夢をみることができませんが
たまには誰も傷つけない愉しい嘘に騙されてみるのもいいかも、と思います。
どうでしょう?
ピットコタン
だいぶ月日は経ってしまったけれど
今夜うちに来ませんかー。
りんごを用意して待ってますよーーー。