ある日のこと
工房にいるC子が経験もないのにサンダーで鉄板を削りたいと言い出しました。
彼女は悪い人間ではないのですが、やりたがる割にはすぐに飽きるという困った性分で
彼女の被害にあった物たちの残骸が、工房にはいくつも転がっています。
工房の先輩達は「また・・・」と内心思いながらも
後々恨まれても困るので、仕方なくサンダーの使い方を指導しました。
初めはおとなしく神妙な顔つきで聞くC子。
しかし、C子はかなりの面倒臭がりで、しばらくするとそれが現れ始めました。
先輩の丁寧な指導に度々口を挟み
「この作業は毎回やらなくてはダメ?」「一番最後ではダメ?」と
やたらと手順を端折りたがるダメっぷりを発揮し出しました。
先輩もやりにくい中年後輩相手に
「これは毎回やったほうがいいですよぉ」
と出来るだけ穏やかな口調で答える気の遣いよう。
レクチャーを終えて、いよいよサンダー実践です。
サンダーという名称の通り、この工具を使用して鉄を削ると
雷のような火花がぱあーーーっと派手に散って
「おおおーーー!!!すごーーーーーいいい!!!かっこいいいいーーーーー!!!」
となります。
C子には、飛び散る汗のように見えるあの火花が、仕事の充実感を表しているように見えて
前々からその光景に憧れを抱いていました。
まるでコンクリートの塊を持っているかのような重い重いサンダーを
妙な体勢で持ちながら、つりそうな手でスイッチをオンするC子。
ウィーーーーーンと男っぽい音を出しながら回るサンダー。
気分も上がり、やや緊張気味のC子。
恐る恐る鉄板にサンダーをあてます。
ウィン、ウィン、と短く鉄板にあたる音。
あきらかに先輩たちの出すそれとは違う弱気な音。
火花がまったく散らない。
不満。
だんだんと削ることより、火花を散らしたいと思い始めるC子は
半ば強引にサンダーを押し当てます。
勘違いな思いでやっと出た火花も
ショボボオオオーーショボオオオーーーという感じで
C子はサンダーに素人と見抜かれた挙句
あっさりと主導権を奪われてしまいました。
操るという立場が逆転してしまったC子は完全にサンダーにナメられて
先輩方が10分もあれば終わる作業にあろうことか1時間近くもかかり
昼間に始まった作業は夕方になってようやく終わりました。
サンダーがけをしたという充実感で、気持ちだけは
「プロフェッショナル仕事の流儀」のはしゃぐC子には
この類の自己満足というか、しくじりがいくつもあるのです。
こうしてたったの、たったの数ミリを削るだけの作業は
大袈裟な過程を経て、C子の自己満足という結果で幕を閉じました。
念のため申し上げますが、
文中のC子(わたし)は自分の作品を制作しております。
ご依頼を受けましたお仕事には一切手出しはしておりませんのでどうぞご安心ください。